悪人 (下) / 吉田修一

悪人(下) (朝日文庫)悪人(下) (朝日文庫)
(2009/11/06)
吉田 修一

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増尾圭吾や、法外な価格で漢方薬を売りつける堤下など、誰が見ても最低だと思える人間を登場させ、犯罪者である祐一に肩入れしたくなる構成にあざとさは感じるものの、そう思いながらもやっぱり彼のことを嫌いになれないんですよね。読者は彼の純粋さと犯した罪の重さを天秤にかけながらずっと迷い続けることになります。
冷静に考えれば犯人にもっといい道が用意されていたはずなのに、真実を隠してまで愛する人間を守ろうとする。優しさなのか独りよがりの傲慢さなのか、受け取る側が違う判断をできるというあたりは映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」に通ずるものがあります。

しかし、未だに涙なしには観られない「ダンサー・イン・ザ・ダーク」に対し、本作を冷静に読めてしまったのは主人公たちの背負っているものの重さが起因しているものと思われます。
「ダンサー~」の主人公であるセルマは自らも失明の危機にありながら、同じ病の息子を助けるために必死に働いていました。その上で彼女に罪を犯させる大きなきっかけがあった。しかし、本作の祐一に関しては彼の優しさと狂気、幼少の頃の記憶の部分しかはっきりした描写はないため、実際の事件でよく見る「虫も殺せないような子が…」という印象が残る程度で、殺人の動機自体にはあまり深みがないように感じました。彼と行動を共にする光代についても同じ。愛情の深さは伝わってきても、逃避行への決断に意味を持たせるには描写が足りないんじゃないかな。僕にとっては、自分の感情を上手く表現できない不器用さと幼さが招いた悲劇としか映りません。

そんなわけで、肝心の祐一と光代の二人のシーンにはあまり面白みを感じられませんでした。
それでも、彼らを取り巻く人々の視点から多角的に描いたことによって、作品としてはグンと魅力がアップしています。石橋佳男と清水房枝のエピソードは特に読み応えがありました。主人公にあまり感情移入できなかったのは、彼らが主人公の間接的な被害者だったからかも…。逆に、事件をきっかけに新たな考え方を得ることができた鶴田(増尾の友人)のような人物がいるのも興味深いところです。

不満もあるものの、あっと言う間に読み切ってしまい、まだ観ていない映画版への期待感を高めるには十分な内容でした。
欲しくもない金を、自分を捨てた母親にせびる祐一の姿、「どっちも被害者にはなれんたい」というセリフは読後にも強く心に残っています。

◆上巻のレビューはこちら

◆吉田修一作品のレビュー
「横道世之介」
「パレード」
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テーマ : 読書感想文
ジャンル : 小説・文学

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