舞台 / 西加奈子



29歳の葉太はニューヨークで一人旅をしている最中に盗難に遭い無一文になってしまう。しかし、自意識過剰な彼は困っていることを誰にも伝えることができず、何事もなかったような演技をし続ける…。

心の中では明らかに混乱しているのに、平静を演じてしまう。見知らぬ人ばかりのニューヨークだというのに、主人公のカッコつけは一向に止まりません。書店であらすじを読んだ時からこの一点だけでも僕は主人公にただならぬ共感を覚え、絶対に読まなくてはと思いました。

が、実際はあらすじを読んで想像していた内容とはかけ離れていて、しかもそれが好みではない方向に向かってしまっていた感じ。主人公の心情もリアルに描かれているとは思いますが、不快指数が高すぎて全く共感できません。父親との関係も上手く描かれているとはいえず、本当にただの嫌なヤツにしかなっていないんですよね。
作中にも名前が出てくるように、作者は明らかに「人間失格」を意識して書いてはいるんですけど、あちらの主人公が生に絶望するほど悩んでいながら(好き嫌いがはっきり分かれるのは別として…)感情移入しやすい人間だったのに対し、こちらの葉太は悩み方が自分に近いのがかえってどうでもよく見えてしまいます。本や映画は多少脚色されている方が面白くなるんだろうな。

やはり同じような手法で「人間失格」を書いた太宰治は天才だったんだなと再認識しました。
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ジャンル : 小説・文学

しょうがの味は熱い / 綿矢りさ



付き合いも長く、同棲している一組のカップル。彼女である奈世(なよ)は、こんなに長くいっしょに住んでいるのだからそろそろ結婚の話が出てきてもおかしくないはず、とプレッシャーをかけ続け、彼氏の絃(ゆずる)は自分のことに必死で彼女からの圧力から逃げ始める…。
何となくいっしょにいる男女にはありがちな内容でありながら、双方の視点で語られているために、男女ともに理解できる点はあるはずです。

ただ、僕は読んでいる間ずっと奈世にイライラしっぱなしでした。
もちろん、絃の煮え切らない態度もどうかと思いますよ。ただ、男の意見としては、見返りを求めた気遣いというものが、相手にどれだけの負担になるのかということをよく理解してほしいと声を大にして言いたい! この作品の中で奈世がしていることはいちいち押しつけがましくて、終いには婚姻届けまで持ち出して勝手にお祝いムード…。これは反則でしょう。

結局、奈世は実家に戻り、彼女の存在の大切さを再認識した絃が実家に迎えにきて、二人はよりを戻します。奈世の両親のことばが彼女を冷静にさせた形で、二人がお互いへの理解を深め、少し前進といったところ。その流れでゴールインとなればいいんでしょうけど、個人的にはこのカップルは最終的には上手くいかず別れると思いました。やはりこのカップルの間にはどうやっても埋められない考え方の相違が存在します。どちらかが「ま、いいか」と妥協できればいいんですけど、この二人はどちらも結構頑固なんですよね。多分数ヶ月もすればまた同じような問題が勃発するんじゃないかな。

◆綿矢りさ作品のレビュー
「かわいそうだね?」

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怒り (上) (下)/ 吉田修一

 

図書館で予約待ちしていたものをようやくレンタル。上巻は年末年始に読みましたが、感想を書く前に下巻も読み終えてしまったので、まとめてレビューします。

殺人事件を起こし、整形手術をして逃亡している山神一也という男を追い続ける警察。その警察の元に、容疑者に似た男がいるという情報が寄せられます。物語は、新たな土地に移り住んできた山神に似た3人の男と、彼らの生活を支える人々を中心に進みます。

3つのエピソードが代わる代わるやってくるので飽きずに読めるんですが、個人的には同性愛者の優馬と直人のエピソードが断トツで面白かったですね。二人は恋人同士でもあり、飼い主とペットの関係のようにも見えます。優馬は直人に自分の部屋に住まわせ携帯電話を与えても彼の過去を知らないし、自分が働いている間にどこで何をしているかも知らない…。猫のように自由に生活しているけど、たまに思いもよらぬ優しいことばをかけてきたり、入院中の優馬の母親を見舞いに行ったりと、なかなか見事なツンデレ具合を見せるので憎めません。いつの間にか優馬に感情移入してしまいました。

人は好感を持ってしまえば、素性の判らない相手でも受け容れてしまうものです。
優馬が、心を許した直人に「お前のことを信じてない」というようなことを言いますが、そう直接言えることは逆に相手のことを信じているということなんだと自覚します。この文章に大きく同意。直人が姿をくらませても騙されていたとは思わずに、ただただ彼の帰宅を待ち続けるなんて健気じゃないですか!
もちろん、一旦疑いを持ってしまうと疑念は膨らんでいく一方で、優馬とは違い相手を信じることができない人間も出てくるわけですが、それはそれで共感できました。

舞台が3つもあるためどうしても登場人物が多くなりすぎて憶えるまでに時間がかかるのが難点ですし、タイトルの"怒り"の正体が最後まではっきり明かされない点は個人的に嫌でしたけど、人を信じることを軸にしながら犯人や動機が終盤まで判らないサスペンス要素も含んでおり、昨年冷めていた読書熱を一気に再燃させてくれるパワーを持ったエンタメ小説でした。
吉田修一作品としては「悪人」と並ぶお気に入りです。

◆吉田修一作品の評価
「悪人(上)」
「悪人(下)」

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永い言い訳 / 西川美和



津村啓という名前で活躍する作家、衣笠幸夫は不倫の最中に妻をバス事故で亡くす。しかし、大きな喪失感も後悔もないままマスコミには悲劇の渦中にある人物として扱われ、かえって居場所を失いつつあった彼は、同じく被害者家族である大宮陽一と出会い、彼の子どもたちの世話を申し出る…。

配偶者が事故で死んだ時、本人は不倫相手と会っていたという設定は映画「ブローン・アパート」に似ていますが、こちらはもっと静か。妻がもう自分を愛していなかったということを彼女の死後に知った時も大きく乱れることなく、むしろ感情が死んでいく様が妙に生々しくて惹き込まれます。
そんな幸夫が他者の家族と触れ合うことでようやく前進できたというのが、自分に重ね合わせることができる点。人間は生きている限り、何かにつれ言い訳をし続けるものだとは思うんですが、何かが欠けていて失敗を繰り返していてもその中から光を見出すことはできるんだということを考えされましたね。

大宮家の人々もみんなよかった! 特に父親の陽一には惹かれました。性格的に自分は幸夫側の人間だと思うので、だからこそ、熱く感情的な陽一が魅力的に映ったんだと思います。

原作の満足度が高かったのでぜひ映画の方も観てみたいんですけど、個人的に主人公のイメージは本木雅弘ではないんだなぁ。もっと朴訥としたような男、例えば西島秀俊あたりの方がピンと来そうではあるんですが、まぁ、幸夫はテレビに出演するような人気作家ですから、シュッとした感じなんですかね。

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呪われた腕 / トマス・ハーディ



大学の英文学の講義で名前だけは知っていたトマス・ハーディ。この度、新潮文庫の「村上柴田翻訳堂」として復刊したので、短編からデビューすることにしました。

本作は8つの短編が収録されているんですが、悲劇的というか皮肉な運命が待ち受けているという点で共通していますね。ただ、終わり方がどれもモヤッとしていて読後感がいまいちなのが残念。同じ悲劇的なラストでも、ブッツァーティなどは上質なサスペンスに触れたようなドキドキ感が味わえたんですが、ハーディの方は「こうなりましたとさ…」と登場人物たちのその後を語るだけにとどまっていて、最終的に主人公の心情すらも脇に追いやられているように思えてしまうんですよね。

しかし、その展開に慣れてくるとこの本は一気に面白くなってきます。僕がそうなったのは、表題作「呪われた腕」あたりから。「呪われた腕」は短編でも割とボリュームがあるんですが、ハーディはラストで余韻を残すタイプではないから、それなりに長い方が物語に入りやすくこちらの想像が入り込む余地ができるんでしょう。

その他では、妹の婚約者と恋仲になってしまう「アリシアの日記」や、会ったこともない詩人に恋をし、暴走してしまう人妻を描いた「幻想を追う女」といったところがお気に入り。どの話も客観的に見れば主人公の考えが甘くて選択を誤ってしまっているようにも見えるんですが、思い込むと気が済むまで突き進んでしまう女性特有の行動(と、頭に血が上ると安直に動いてしまう男性の行動)が表現されていて興味深かったです。

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いぬふく

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  • 趣味は多数。テニスは主にWTA(女子テニス)、音楽はアメリカンR&BとHIPHOP、ゲームと映画、読書はジャンル問わず。
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