サラバ!(下) / 西加奈子



大学を卒業し、社会人となった歩。しかし、可愛らしいルックスで付き合う相手に不自由しなかった彼も髪の生え際が後退し、そのコンプレックスから引きこもり生活を送ることになってしまいます。
そして、問題児としてそれまで見下していた姉が結婚しすっかり落ち着いたことで立場が逆転。その日暮らしをしていることを姉に諭されて理不尽な気分になり、反抗的な態度を取ってしまったりも…。

もちろん、恵まれているのを当然として他人を低く扱っていた歩の転落は自業自得なところがあり、一切可哀想とは思えないんですけど、大なり小なり、自分にも若さに甘えていた過去があるような気がして、彼を責めることができないんですよね。
加えて、歩には姉の存在が理由で恋人と別れた過去があるし、久々に再会を果たした須玖も鴻上とくっついてしまって入り込む隙がなくなってしまうし、歩の居場所がなくなっていく様子は手に取るように伝わってきました。

というわけで、歩の目線ではモヤモヤする面もあるんですが、個人的には姉がまともになってくれたのは大きな救いでした。いい子で育って大人になってこじらせるより、子どもの頃に周囲に迷惑をかけても成長とともに落ち着く方が健全に見えるんですよ。

傑作とまではいかないものの、昨年読んだ「舞台」より楽しみ方の幅が広くて読み応えのある作品。来年か再来年あたり、もう一作西加奈子作品に挑戦してみたいところです。

◆関連作のレビュー
「サラバ!(上)」
「サラバ!(中)」
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テーマ : 読書感想文
ジャンル : 小説・文学

サラバ!(中) / 西加奈子



両親が離婚し、日本に帰国した主人公家族。母親と姉の関係にウンザリしていた歩は、成長するにつれ家族と距離を取るようになり、恋愛や友人との時間を楽しむようになる。しかし、問題児だった姉は引きこもった末におばの家に祀られた謎の存在、サトラコヲモンサマに傾倒し、さらに阪神大震災にも見舞われ、なかなか穏やかな日常を送れずにいた…。

高校ではサッカー部に入り、目立たないながらもいろいろな才能を持った須玖と親しくなりますが、震災が起きたことで疎遠になってしまいます。
大学に入ると東京で一人暮らしを始め、大勢の女性と遊んだ後、映画サークルに入り、そこでビッチの鴻上と親しくなります。異性でありながら肉体関係を持たない特別な親友が生まれ、CDショップでのバイトをきっかけにライターとしての道を歩き始めます。

大学時代のエピソードなどは村上春樹作品を思い出す部分もあるものの、あちらの主人公は感情が淡々としているのに対し、本作の歩は計算高い面が目立ち、好き嫌いが分かれそうなタイプ。それでも、そんな主人公を含め、個性的な人物たちが大勢登場し、あの厄介者の姉でさえ少し好きになってきました。
ただ、上巻のヤコブもそうでしたが、魅力的な須玖ともあっさりと別れてしまうのが残念。特に須玖はなぜ震災であんな精神状態になったのかがほとんど描かれていないので、尻つぼみでいなくなってしまった感じでした。このあたりは個性的なメンバーが多く登場している弊害が出てしまったといったところでしょうか。

◆関連作のレビュー
「サラバ!(上)」

テーマ : 読書感想文
ジャンル : 小説・文学

サラバ!(上) / 西加奈子



イランで生を受け、日本で幼少期を過ごし、エジプトへ渡った少年とその家族の物語。かなり特殊な環境に身を置いているように思えるんですけど、主人公は男の子という点以外は作者の生い立ちそのままなんですね。実体験を基にしているせいか、馴染みのない国の光景までもが目に浮かぶようです。

登場人物も強烈なキャラばかりです。毎日バトルを繰り広げる姉と母親が筆頭ですが、我関せずの父親もいけ好かないですし、親戚もクセがありそう。それに、中立の立場で描かれているので目立ちませんけど、自己顕示欲が強すぎる姉を見てきたせいで妙に世渡り上手になってしまった主人公もちょっと嫌なヤツなんだよなぁ。
登場機会の多い人物に限って問題を抱えているためにどう考えてもハッピーエンドに向かわなさそうではあるものの、エジプトで親しくなった向井さんやヤコブはなかなかに魅力的で、特に帰国を機にヤコブと別れなくてはならなくなった時は、読んでいる僕の方も大きな喪失感に見舞われました。この先、彼との再会はあるんでしょうか…。

西加奈子作品は文体も登場人物も個性が強く好き嫌いが分かれそうで、僕も昨年「舞台」を読んだ時は苦手意識を持ったものですが、本作は今のところ問題なく楽しめています。幼稚園のクレヨン交換のように一見本筋とは関係なさそうなエピソードもありますけど、それは作品の箸休め的な存在なのか、それとも中巻以降に大きく絡んでくるのか、そのあたりも楽しみです。

◆西加奈子作品のレビュー
「舞台」

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ジャンル : 小説・文学

騎士団長殺し 第2部 遷ろうメタファー編 / 村上春樹



「1Q84」同様、第2部まで読み終わっても解明されない謎はそのままで、そこも含めて相変わらずの春樹節。喪失と再生の物語なのも彼の作品だなぁと。井戸が重要な要素として描かれているあたり「ねじまき鳥クロニクル」を彷彿とさせますが、全体的な印象もねじまき鳥に近いかも。

謎が解明されないのにはさほど不満はないんですが、「1Q84」は主人公たちの運命が気になって、読み終わった後にも自分なりの結末を予想する面白さがあったのに対し、こちらは読み進めるほど自分と主人公の距離が開いていくような感覚に陥りました。
騎士団長や顔ながといった非現実的なキャラクターも、13歳の少女、まりえも、1部で出てきた時に期待したほどの魅力は発揮していませんでしたし。まりえはもう少し可能性を秘めたキャラだと思ったんですけど、自分の身体の成長について中年男に語るとか、現実には考えられないんですよね。
余談ですが、作中の騎士団長の描写はれっきとした人間なのに、読書中の脳内ではどうしても「猫の恩返し」のバロンに変換されてしまって修正に困りました…。

深読みしようとすればどこまででもできそうですけど、単純に物語としても面白く、少なくとも「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」よりは満足できました。しかし、やはり春樹作品だから読み進められたのは否めず、無名の作家だったら途中で投げてしまったかもしれません。村上春樹だから読み進められたのと同時に、村上春樹だからハードルが上がってしまう面もあり、正当な評価が難しい作品です。

◆第1部のレビュー
「騎士団長殺し 第1部 顧れるイデア編」

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騎士団長殺し 第1部 顧れるイデア編 / 村上春樹



村上春樹、4年ぶりの長編小説。

絵描きである主人公は妻から離婚を切り出されたのを機に家を出て、小田原にある一軒家に住むことになります。そこは日本画家の雨田具彦がかつて住んでいた家で、そこで主人公は"騎士団長殺し"と名付けられた一枚の絵を発見することに…。

とにかく謎の多い物語ですね。
主人公に肖像画を依頼してきた免色(めんしき)という男は第1部ではほとんど正体が明かされませんし、地下から聞こえてきた鈴の音に突然現れた騎士団長、免色の娘かもしれないという少女や白いスバル・フォレスターの男に至るまで、重要な要素と思われるのに情報がほとんど与えられません。
今回は人物の細やかな心情で惹き込むタイプではなく、概念的な説明が多いため、感情移入できるような作品ではありません。村上春樹の文章自体は相変わらず好きなんですが、前作でも感じたような鼻につく部分もあるにはありました。それでも、第1部の終盤になるにつれ物語がしっかり動き出し、ページをめくる手が止まらなくなるのも春樹作品ならではの感覚。

ちなみに、彼の作品には欠かせない、美味しそうな料理や興味深い音楽は今回もしっかり登場します。特に料理は毎回毎回よくここまで魅力的なメニューが出せるものだと感心してしまうほどで、自炊したくなってくるんですよね。

◆村上春樹作品の評価
「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」

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いぬふく

  • Author:いぬふく
  • 趣味は多数。テニスは主にWTA(女子テニス)、音楽はアメリカンR&BとHIPHOP、ゲームと映画、読書はジャンル問わず。
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